野口悠紀雄先生の「日本経済改造論(2005年 東洋経済)を読み返してみたのですが、デフレについて書かれています。
野口先生はここ数年の経済状況は「デフレではない」と書かれており、したがってデフレ対策としての「金融緩和」は意味がないとしておられます。
私は全くその通りだと思うのですが、そのようなことを主張する人も、本もテレビ番組もほとんどありません。
ネットで「デフレではない」と入力して検索してもほとんどヒットせず、ヒットしたページを見てみると「よいデフレ」と「悪いデフレ」があって今は「よいデフレだ」などと、よくわからないことを書いておられたりします。
で、その野口先生さえも「日本を破滅から救うための経済学(ダイヤモンド社)」の10ページで、
「しかし、実際には、日本で1990年代以降生じている物価の下落を「デフレ」と呼ぶことがごく一般的だ。これに異を唱えるのは、いたずらに混乱を招くだろう。そこで本書においては、やむを得ず、本来はデフレではない現象を「デフレ」と呼ぶことにする。そして本来のデフレを「教科書的な意味の一様な物価下落」ということにする。
と書いておられます。
ここはこだわっていただきたいところなのですが、仕方がありません。
たしかに問題の本質は「デフレの定義」で議論することではなく、野口先生が同じページで
「この区別(デフレかそうでないかの区別)がなぜ必要かといえば、必要な対策が異なるからである。」
と書いておられる通り、正しい経済政策が行われているかどうかという点にあります。
貨幣現象たるデフレではないのに金融緩和をやっても仕方がないというのが問題の本質ですね。
「日本経済改造論」では次のような説明をしておられます。
・物価指数が低下してきたのは事実だが、これは経済構造の変化が引き起こした実物的な現象であり、貨幣現象たるデフレではない。
・そしてこれは日本の高物価体質を是正することになる
・「デフレだから経済活動が停滞する」という主張は間違いである
・「教科書的なそもそも論」で言えばデフレが経済活動に与える影響は、原理的にはあり得ない
・貨幣現象であるデフレは、総需要縮小などの実物的要因で起こるものではなく、貨幣供給用の縮小によっておこる。
・しかし現実には(金融緩和によって)貨幣供給量は増加している。これから見てもデフレ不況論が誤りであることがわかる(この本は2005年に出版されています)
仮に金融緩和で物価が上がったとしても、それは異常に上がりすぎた貨幣価値を適正価格にまで下げたということなので、企業の売上が増えて利益が増え、社員の給料が増えたとしても、貨幣価値が下がっているので社員の実質所得に変化はない。
「デフレだから金融緩和」という政策は、既存の産業構造を温存したままで、なんとか金融的な手法で解決しようという意図があるのではないでしょうか?
また、「インフレは税」とも言われます。
インフレ(すなわち貨幣価値下落)になれば、我々の定期預金などの実質価値が下がり、政府の借金などは逆に実質負担が軽くなります。
では、経済政策をどうすればよいか?
野口先生は「産業構造を変えることが必要である」と言っておられます。
ただちょっと抽象的なので分かりにくい。(金融立国とか書いておられますが、私には具体的なことがわからない。)
で、前置きが長くなりましたが、そこで大前研一さんの「クオリティ国家という戦略」が大変参考になります。
このような方針が日本の生きていく道だと私も感じました。
・ここ数年飛躍を遂げているのはスイスやシンガポールなどの「クオリティ国家」だ
・これらの国は小国でかつ開放経済
・税制優遇で外国企業を誘致し、移民も受け入れている
・ブランド戦略がうまい
・オーガナイズスモール=企業を元気にするには組織を小さくするしかない
・よって大阪都などの道州制は有効
・日本にしかないもの、日本人でなければできないことをやる。
・ブランド戦略が重要 コモディティを作っていたはダメ
・起業が雇用を生む
などと書いてあります。
私は日本経済の大問題はデフレではなくて、産業空洞化に伴う雇用減だと思います。
特に若い人は失業率が高いと聞きます。
若い人に仕事がなければ、結婚もできないし子供もできないので少子化も進むな。
ただ、企業にも雇用を増やすことができない事情があるでしょうから、日本はもっと若い人たちの起業を促進するような経済政策をとるべきではないでしょうか?
一時的な補助金などではなく、たとえば税制。
日本の税制は給与所得控除や社会保険などの面でサラリーマン優遇・個人事業主冷遇だと私は思います。
商売人は不当に儲けているから高い税金をかけるという昔ながらの思想か?
また、サラリーマンは自営業者に比べて脱税の余地が少ないので、公平にするために手厚い給与所得控除が設けられているなどという人もいます。
「若者よ、おとなしく勤め人になれ。商売なんかするな。真面目にやれ!」
という考え方ですね。
これを変えるべきだと思います。
個人事業なら、青色申告特別控除65万円ではなく、控除前所得の金額に対して給与所得控除と同じ控除額を適用してはどうでしょうか?
また、設備投資について、投資した年度に一括経費を認め、赤字が出た場合は、個人事業も法人と同様に9年繰越控除を認めるというのはどうでしょうか?
法人設立費用だって、30万も35万もします(半分くらい税金)が、もっと安く設立できるようにしてはどうでしょうか?
一時的な補助金や制度融資などではダメで、若い人が
「これなら商売を始めよう!」
と思えるような政策を行ってほしいと思います。
今はパソコンやインターネットが発達して、若い人が起業しやすくなっていると思います。
アニメ・音楽・ネット販売・デザイン・動画サイト運営など初期投資を少なく抑えていろんなことを始められる。
若い人が起業して、世界で日本ブランドを売りまくるようになると、日本はクオリティ国家となり、経済も大いに復活することになると思います。
そういうわけで、たいへんタメになる本でした。