資本主義の精神

「資本主義のための革新」小室直樹

日本は資本主義国ではなく、実質的に社会主義国である。
実質・社会主義国である日本では、政府だけではなく巨大化した企業組織も官僚化し、かつてのソ連が崩壊した時と酷似した危機的状況を迎えている。

「資本主義の精神 三つの側面」
①労働それ自体を目的とする精神
②目的合理的精神
③利子・利潤の正当化

この本だけではなく、小室先生の講演CDや過去の著作を読んでいると、どうも日本人は②と③(特に③)の精神が欠落しており、どこまで行っても資本主義社会にはなれないように思われます。

利子・利潤の正当化!

・弁護士、司法書士は、サラ金業者を相手にした「過払い利息の返還請求」のコマーシャルをいまだにやっている。
・「高ければ売り、安ければ買うのは当たり前という利益至上主義には慄然とせざるをえない」と発言する裁判官
・日本では技術が進歩して資本が蓄積されるから会社を作るのではなく、税金が安くなるから会社を作る
・「大東亜戦争とスターリンの謀略」より(クーデターをおこした青年将校たちの思想背景について)
「青年将校の思想内容には二つの面があることに注意する必要がある。そのひとつは建軍の本義と称せられる天皇の軍隊たる立場で、国体への全面的信仰から発生する共産主義への反抗であり、今一つは小市民層及び貧農の生活を護る立場から出発した反資本主義的立場である」(91ページ)
※共産主義は天皇制と私有財産制を否定

「共産主義が資本主義打倒を目的とするからけしからぬというのではない。即ち、日本軍部ファッショの持つ特殊の立場は、資本主義擁護の立場にあるのではなく、資本主義、共産主義両面の排撃をその思想内容としていたところにある。この思想傾向は後に述べる如く、最後まで共産主義陣営から利用される重要な要素となったことを見逃してはならない」(91ページ)

私腹をこやす官僚、高給取りの公務員には寛容だが、資本主義的な事業活動によって利益や富を手にしたものは許せない。
何か悪いことをしているに違いない

第三章からはシュンペーターの革新理論について触れておられます。

①革新(イノベーション)が起こる
②革新を起こしたものは、創業者利得を得る
③が、この利得は、革新(イノベーション)が模倣されることによってやがて消滅する
④利潤の鍵は、革新が不断に行われているかどうかにかかっている。
⑤革新が行われなくなれば、企業者ではなく経営(管理)者になってしまう(以上184ページ)

「資本主義の成功が、その滅亡の原因を作る」(209ページ)
「資本主義が発展すると、大企業の時代になる」
「大企業の官僚化によって資本主義は社会主義化し、衰亡し滅亡する」(248ページ)

つまり、自動車を発明し・商品化するのは革新だが、生産方法を「改善」し効率化が完成されると、もはや革新が生じる余地はない
あとは社会主義的に生産活動を行い、経営者はこれを管理するだけ。

こうなると、
①利潤率は下落し続ける
②実質賃金は減少し続ける
③地代は増大する
(244ページ)

野口悠紀雄先生の本、「日本式モノづくりの敗戦」だったと思いますが、
「日本の自動車メーカーは革新を起こしたのではなく、確立されたものを改善しただけだ」
というようなことを書いておられました。

全くその通りなので、日本経済は危機に陥っている
製造業の生産部門は次々と新興国へ移転し、国内製造業は空洞化。
大企業は官僚化し、実質国営企業化する。
実質国営企業では革新(イノベーション)はおこらない。

小室先生は、このままではいけないと書いておられますし、
野口悠紀雄先生は「古い企業体質を温存するのではなく、産業構造を変えるべきだ」と言われる
どちらも正しいと思いますが、実行するのは難しいのでは?
10年後、20年後の日本は、今よりもっと社会主義国になっているような気がするな