この本は、山本周五郎さんが、直木賞に選出されたのに受賞を辞退した作品だそうです。
イヤ、これも実にすばらしい本です。
短編集で、どれも素晴らしいのですが、なかでも私は「墨丸」が一番良かった。
色が黒いから「墨丸」というあだなをつけられた女性の話ですが、これが実に魅力的な女性なのです。
山本周五郎さんの小説は、だいたい夜、眠る前に読みますが、
2~3行読むと、眠気がとんで、吸い込まれるように読んでしまいます。
短編なので数十ページなのですが、まるで映画を見ているような気分になります。
平之丞の印象にあるお石は、色の黒い、赭毛(あかげ)の、からだの痩せて小さな、みっともない子であった。
けれどもいまそこに見るお石は「みっともない」どころではなく、十人あまりいる娘たちの中でも際立って美しい、
その美しさは髪化粧や衣装のためではなく、顔かたちでもなかった、いってみればお石のぜんたいから滲みでるもの、
外側の美しさではなくて、内にあるものがあふれ出る美しさのようだ。(230ページ お石=墨丸のこと)
お花見の場で、十人余りの女の人たちが琴をひく場面ですが、魅力的な墨丸の姿が目に浮かぶようです。
墨丸はわけがあって、主人公である平之丞のもとを去っていくのですが、数年後に再会するという話。
実に感動的な物語です。
アマゾンの書評で、「糸車」が一番いいと書いている人がいましたが、確かに「糸車」も良い!
「糸車」とタイトルを聞いただけでじわっと目がしらが熱くなります。
というか全部よい。
もう一回初めから読むことにします。