昔、タイヤ会社に入ったばかりの頃、一か月ほど工場実習というのをやったことがあります。
4勤2休。つまり昼勤(9:00~5:30)を4日やったら二日間休み、その次は夜勤(21:00~6:00)を4日おこなうというパターンを繰り返すのですが、ちょうどそのとき、同じ部署にN君という新入社員がいました。
私も新入社員でしたが彼は高卒だったので私よりかなり若かった。
食堂や仕事帰りの風呂などで仲良くなったので、よく覚えているのですが、彼は一日中上司に厳しくしごかれていたのです。
今はタイヤの生産も機械化が進んでいるでしょうが、当時は結構手作業によるところが大きく、熟練工と新人ではまったく生産性が違いました。
入りたての新人を早く一人前にするために上司も必死で指導していたのでしょうが、ちょっと厳しすぎると私は思いました。
高校を出たばかりの19歳ぐらいの少年が、慣れない夜勤で、眠い目をこすりながら一晩中上司にガミガミ言われながら働いているのです。
それだけでも大変なのに、小突かれたり、突き飛ばされたりしながら働いている。
突き飛ばされた後、床に倒れたN君に上司が
「おまえはアホか!スポイトは何のためにあるんじゃ!」
と怒鳴りながら油の入ったスポイトを投げつけたのをよく覚えています。
ある日、現場の班長さんと休憩所で話していると、N君がはいってきました。
班長さんが、
「どうやった?」
と聞くと、N君は
「もう一回よく考えてこいと言われました」
と答えて休憩所を出ていきました。
どうやら仕事がつらいので、厳しい上司に退職を申し出たようでした。
私は班長さんに
「班長、いくらなんでも厳しすぎると思いますよ、N君がかわいそうですよ」
と言ったら、
「お前はアホか?ええか、熟練工は一晩で〇〇本のタイヤを作るが、新人は□□本(本数を忘れましたがケタ違いに少ない本数でした)しか作られへんのや。早く仕事を覚えんかったら苦労するのは本人なんやぞ!」
と言われました。
その数日後にN君は退職しました。
4月に入社して8月に退職したのです。
かわいそうでしたが、班長さんの言われることもわかる。
社会人というのは厳しいもんだなあと感じたのを覚えています。
で、今思うと日本の製造業というのはこのような人たちの苦労に支えられて成長してきたわけですが、時代は変わり、今は自動車メーカーは6割から7割の自動車を海外で生産し、日立はテレビの自社生産から撤退。
そして、日本は31年ぶりに貿易赤字国になりました。
日本を支えてきた製造業が衰退していくニュースを見ながら、なぜかN君のことを思い出してしまいました。