今この本を読んでいますが、たいへん勉強になる良い本だと思います。
で、昨日読んでいて驚いたのですが、168ページに
「G7諸国の長期金利と財政収支(名目GDP比)の関係(1990~2003年)」
という資料があります。
(この名前でグーグルで検索すると、この本の著者である櫨浩一先生の講義資料みたいなのにヒットして同じグラフを見ることができます。)
普通、金利はマーケットが決めるという理屈からすると、
貸し倒れリスクの高いヤツに貸す場合、金利は高くする
貸し倒れリスクの低いヤツに貸す場合、金利は低くする
ところが、日本の場合にはほとんどこの理屈が成り立たたない。
私が人並み外れた教養の持ち主であり、偉大なる常識人であると尊敬している浜村淳さんでさえ、以前にサブプライムローンのニュースを説明するときに、
「アメリカのサブプライムローンというのは、信用力の低い人でも家が建てられるようにするために銀行が低い金利で貸してくれるものです。」
と言ったあと、たぶんスタッフの人に間違いを指摘されたのだと思うのですが
「先ほど金利を安くして貸してくれるといいましたが、逆だそうです。高い金利で貸してくれるそうです」
というような言い方で訂正しておられました。
このときの浜村純さんの口調が、なんとなく釈然としない様子だったことが強く印象に残っています。
日本ではカネを貸すという行為は「好意で貸す」「施しで貸す」「協力してあげる」「助けてあげる」というイメージが強いのではないか?
確かに親が子供に住宅資金を貸したり、資金繰りに困っている知人にカネを貸してあげるのは「好意」であり「施し」「協力」であるが、
サラ金や銀行が貸すのは好意ではなくてビジネスだ。
ところが日本ではこれがごっちゃになるので、金利が正常なメカニズムで決定されることがないのだろうな。
日本ではサラ金の高金利が批判されて、過払い利息の返還請求などが行われるが、ノーベル平和賞をとったムハマドユヌスさんのマイクロファイナンスの金利は結構高い。(サラ金より高いケースも多い。)
で、前置きが長くなりましたが、日本の長期金利(10年物国債金利)についてですが、櫨先生の本の168ページにある「G7諸国の長期金利と財政収支(名目GDP比)の関係(1990~2003年)」という資料をみると、
日本以外のG7諸国では、財政赤字額が増えると金利が上がる
日本では財政赤字額が増えると金利が下がる
という驚愕の事実が説明されています。
日本では他国と違って、財政赤字拡大(貸し倒れリスク拡大)で金利が下がるのです!
櫨先生は、日本は貯蓄率が高く財政赤字を家計の貯蓄で賄ってもまだあまりがあるからだと説明しておられます。
そもそもこの本は日本独特の経済現象を「高い貯蓄率」という側面から説明しておられ、非常に興味深く、説得力もあるのですが、
こと、長期金利に関しては貯蓄率が高いというだけでは説明しきれないのでは?
各年度の財政収支状況(フロー)だけではなく貯蓄率(というか貯蓄額=ストック)も含めた信用力で長期金利が決定しているのなら、財政赤字拡大に従って金利は上昇するが、上がり方が他国に比べて低いということあっても、金利が下がることはあり得ないのではないか?
財政赤字が拡大したときに長期金利(10年物国債金利)が下がる理由は、長期金利をマーケットが決めているのではなくて政府が決めているからでしょう。
財政赤字が拡大すると歳出削減が必要になるので、その一環として国債費(金利)を下げる。
借り手が自分の都合で金利を決める!
で、今まではこういうことで済まされてきたわけですが、近い将来、櫨浩一先生が言われるように、少子高齢化、生産人口激減、日本経済弱体化などによって貯蓄率がゼロになり(フローはゼロ、ストックもゼロ)外債を発行せざるを得なくなると、いよいよ日本は世界の厳しい市場原理主義経済に身をさらすことになる。
そうなったら地獄か?
私は良い世の中になると思うけどなあ(戦争や他国からの侵略がなければ)